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ritornel

Author:ritornel
60年代後半~70年代前半の
SFとロックが好きです。
In Search of Wonder
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"Croyd (1967)" by Ian Wallace


 イアン・ウォーレスは1912年生まれ。1998年に亡くなっている。このCroydが処女長篇で、他に共通の設定を持つ長篇が11冊と単独長篇が1冊あるが、短篇は書いていないはずである。ウォーレスに注目したのは、ニール・バロンのAnatomy of Wonderに「ハーネスを強く思い起こさせる」と書いてあり、ニコルズ&クルートのSF百科事典にも「ヴァン・ヴォークト的」と評されていたからである。ハーネス友達の木戸英判さんが早くにThe Sign of the Mute Medusaのレビューを書かれていたのも気になった。それなのになかなか読もうとしなかったのは、ハーネスやベイリーを読んだあとで、ワイドスクリーン・バロックらしき作品ばかりを書いているのはもはやウォーレスだけだから大事にとっておこうという思いからだ。

 それで今回ようやく読んだ感想は、ひと言で言えば、ハーネスには似ていない。ワイドスクリーン・バロックかというと、少なくともこのCroydに関してはそうとは言いがたい。あまりに期待が大きすぎたせいか、ちょっとがっかりしたのは事実である。たしかに大げさな道具立てやスーパーマン的ヒーローなど、ヴァン・ヴォークト系のWSBを思わせる要素はあるが、読んでいる最中ずっと感じたのは、きびきびした文体や原書裏の惹句にもある政治・軍事におけるスパイもの的駆け引きなどがペリー・ローダン(K・H・シェール)みたい(ローダンは20数巻までしか読んでないが)、あるいはフランスSFのような感触がするのだ(フランスものはろくに読んだことがないが。そういえば、フランスではヴァン・ヴォ-クトが本国以上に人気があって「非A3」もフランスで先に出たという)。むしろ、007に代表される当時全盛を極めていたスパイ映画の印象がもっとも近いかもしれない。敵の女スパイや肉体を借りて精神は同居している女と愛し合うという展開は、ハーネスの演劇的、メロドラマ的ヒーロー、ヒロイン像とは明らかに異質だった。WSBとして欠けているのは、主人公の運命を操り人形さながらに左右する形而上学的な力の存在や、主人公のアイデンティティ喪失という設定、作品構成や登場人物を象徴的にかたどる美学、それから閉じられた時間の環、そして何よりも作品世界を貫く巨大な謎とその収束だ。

 大マゼラン雲の支配種族グナールは他者と精神を交換する能力を持っていた。彼らは銀河系を密かに監視し、人類がいつか大マゼラン雲を侵略するのではないかと恐れ、先手を打って銀河系を滅ぼす計画を進めていた。銀河の中心にある二重太陽系の惑星を爆縮させ、連鎖反応によって銀河系全体を破壊しようというのである。一方、グナールの王女ラーラは銀河系の支配階級に乗り移り、あるいは後催眠をかけて自由に操ろうとしていた。人類でただひとりグナールと同等の精神能力を持つと見られる超人クロイドも隙をつかれてラーラに肉体を奪われてしまう。クロイドの精神はラーラが先に乗り移っていたグレタの肉体に閉じ込められる。自らの肉体を取り戻そうと逆襲を図ったクロイドは返り討ちに遭い、彼の精神は無限の彼方へ飛ばされてしまう。そこは銀河の中心の惑星にあるコンピューターの内部だった。クロイドはグナールの計画を知り、精神体となって帰還、ラーラと肉体の支配権を争ううち、互いの心に尊敬と愛が生まれる。ラーラは侵略を放棄して故郷へ、クロイドは爆縮を防ぐために銀河中心へ向う。タイムリミットに間に合わないかと思われたとき、施設が破壊され数日の猶予が得られる。特攻をかけ自爆したのはラーラだった。クロイドはアップタイムと呼ばれる時間移動能力で時を遡る……。

 細かいところは全部すっ飛ばして、こんな話である。ラーラにしてもクロイドにしても、ぎょっとするような能力がつぎつぎに描かれるのだが、細部までコントロールされたハーネスと違って何でもありのご都合主義に思えるのはちょっと厳しすぎる見方だろうか。それにしてもヴァン・ヴォークトもウォーレスもともに1912年生まれ、ハーネスが1915生まれという同世代で、しかも1960年代半ばイギリスでハーネスが再評価されたのをきっかけにしたかのようにウォーレスがデビュー、その翌年ハーネスがThe Ring of Ritornelで復活するというのは偶然だろうか。はたして両者はお互いを意識したことがあるのか。CroydのペーパーバックとThe Ring of Ritornelはどちらもバークリーから似たような装丁で出ているのだ。翻訳は出そうにないが、興味のある向きはぜひチェックされたい。

■イアン・ウォーレス著作リスト

<超人クロイド(Croyd)>シリーズ

Z-Sting (1979), 設定年代AD2475
Heller's Leap (1979), AD2494, セント・サイアが登場
Croyd (1967), AD2496
Dr.Orpheus (1968), AD2502
A Voyage to Dari (1974), AD2506 「別冊奇想天外/SFのSF大全集」に安田均さんの紹介あり(The Paradox Menの紹介も併載)
Pan Sagittarius (1973), AD2509
Megalomania (1989),
AD2509以降
The World Asunder (1976), "Pan Sagittarius"と関連
The Lucifer Comet (1980), "Croyd"と関連

<宇宙刑事セント・サイア(St. Cyr)>シリーズ

The Purloined Prince (1971), AD2470
Deathstar Voyage (1969), AD2475
The Sign of the Mute Medusa (1977), AD2480 木戸英判さんのサイトにレビューあり

シリーズ外作品

The Rape of the Sun (1982) 80年代前半の「SFM」SFスキャナーに米村秀雄さんの紹介あり


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60年代 | 10:08:09 | Comments(0)
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