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投稿日:2009-01-13 Tue

クリス・ネヴィルは『ベティアンよ帰れ』一作で記憶されているような作家である。「ベティアン」はもちろん万人向けのロマンチックな佳作だけれど、ネヴィルの持ち味はそれだけではない。10篇に満たない邦訳短編を読んでもそのバラエティの一端をうかがい知ることができるが、没後出版されたこのマルツバーグ編のベスト短編集を読んで、いっそうその感を強くした(マルツバーグは創作こそ前衛的だが、そのジャンルSFへの愛着の深さは尋常ではない。編著である50年代SFアンソロジー"The End of Summer (1979, 未訳、一部邦訳あり)"の序文「1950年代SF」(安田均訳「奇想天外」1980年4月号所収)を読めばよくわかる)。
The Science Fiction of Kris Neville Kris Neville (Southern Illinois University Press 0-8093-1112-7, Mar ’84 [Feb ’84], $19.95, 241pp, hc); Edited by Barry N. Malzberg and Martin H. Greenberg. Collection of 11 stories, plus an appreciation by Malzberg and a bibliography.
* vii Kris Neville: An Appreciation Barry N. Malzberg bg
* 1 Cold War ss Astounding Oct ’49
* 13 Bettyann nv New Tales of Space and Time, ed. Raymond J. Healy, Holt, 1951 『ベティアンよ帰れ』(ハヤカワSF文庫)
* 57 Old Man Henderson ss F&SF Jun ’51 「ヘンダースン爺さん」SFM64/9
* 67 Hunt the Hunter ss Galaxy Jun ’51
* 83 Underground Movement ss F&SF Jun ’52
* 96 Overture na 9 Tales of Space and Time, ed. Raymond J. Healey, Holt, 1954 『ベティアンよ帰れ』(ハヤカワSF文庫)
* 150 New Apples in the Garden ss Analog Jul ’63 「花園の新しいリンゴ」SFM74/10増刊号
* 162 The Price of Simeryl na Analog Dec ’66
* 214 The Forest of Zil ss Amazing Dec ’67 「ジルの森」(サンリオ文庫『ベストSF1』所収)
* 219 From the Government Printing Office ss Dangerous Visions, ed. Harlan Ellison, Garden City, NY: Doubleday, 1967
* 226 Ballenger’s People ss Galaxy Apr ’67
* 238 Bibliography of Kris Neville Misc. Material bi
短編は今後訳される可能性皆無とはいえないので、紹介はあらすじなしの一言コメントで。"Cold War"は冷戦初期のへヴィなムードにつつまれたシリアスな作品。"Hunt the Hunter"はいかにもギャラクシイ誌らしいどんでんがえしのついた、グルーミイなシェクリイ風の異境でのハンティング譚。"Underground Movement"は急増する超能力者たちを調査するFBI捜査官の話。"The Price of Simeryl"は植民星の大統領と連邦政府調査官との権謀術数が火花を散らす中篇で、最初やや冗長な気もしたが次第に物語にぐいぐい引き込まれて充実した読後感だった。"From the Government Printing Office"は幼児の視点から語られる異様な未来世界。"Ballenger’s People"はちょっとログ・フィリップスの佳作「黄色い錠剤」を思わせる、何が真実なのかわからなくなるパラノイアックなストーリー。

ネヴィルにはもう一冊生前に出た短編集"Mission: Manstop (1971)"があるが、60篇あまりの短編の多くはアメリカでも雑誌に埋もれたままだ。そのなかにはSFMが特約を結んでいたF&SF誌に発表されたものもあるけれども、ほとんど訳されなかった。亡くなった矢野徹さんのいちばん親しい作家がたしかネヴィルだったはずだ。それでも訳されるチャンスに恵まれなかったのは、派手なところのない作風が日本の読者向きではないと編集部に判断されたからなのだろうか(直接関係はないが、SFMに載った「ヘンダースン爺さん」は何度も何度も「次号掲載」とアナウンスされながら訳されず、読者があきらめた頃に掲載されている。この昔を懐かしむ元宇宙飛行士の老人と残酷な少年の話が私は好きだ)。本国でも過小評価された作家という声がある一方で、デビュー当時から文学的才能を大いに期待されながらついに大成しなかったという評価もある。それでも個々の作品の質は決して低くないだけに、このまま忘れ去られてしまうのはたいへんに惜しい作家だ。
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